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第40回 〜トラウマ
大阪府 株式会社造型社 吉田 廣己さん


 幼い頃の体験が大人になってもずっと心に引っ掛かっていることってありませんか。トラウマとまでは言えないまでも、私には今でも心に残る思い出があります。

 それは私が小学生のころ、遠足と写生会を兼ねた課外授業の時でした。行き先はひらかたパーク(ひらかたパークは、大阪の郊外にあって、当時は菊人形で有名な遊園地です)。その頃から勉強よりも絵を描く方が好きだった私は、胸がワクワク喜び勇んで出かけました。

 遊園地に着くとさっそく何処を描こうか、何を描こうかと、友だちと場所探しに走り回ります。丁度その年の菊人形のテーマが「孫悟空」でした、館の中には孫悟空の物語りの名場面を、等身大の菊人形で展示してあったんでしょう。

 私達生徒は館には入れなかったのですが、その館の(今で言うパビリオンかなぁ)正面で切り妻の大屋根の下に巨大な孫悟空が、しかも雲に乗ってさっそうと空を飛んでいる姿で取り付けてあるのを見つけました。

 小学生の私達の目にはすごい迫力に写ったんです、これだぁ!一発で気に入りこれを描くことに決めました。大屋根と孫悟空、全体がきれいに見える絶好の場所に陣取り、画板を広げ友だちと一緒に描きはじめました。

 先生の教えどうり画用紙の隅々まで色をつけ、自分なりに細かなところまで忠実に、どれくらい時間をかけたかは忘れましたが、夢中になって描いていました。

 やがて周りから「できた!」「できた!」の歓声があがりはじめた頃、私の絵も完成に近付いていました、大屋根と孫悟空、如意棒やきんとん雲、衣装に着けられた菊の花、孫悟空の顔、それぞれ丁寧に描けました。我ながらなかなかの力作で、少し鼻高々になっていたのかも知れません。

 できあがった絵を友だちどうし互いに見せあいながらはしゃいでいた時、一枚の絵を見てハッ!としました。それは以前から仲良くしていた親友の描いた絵で、画用紙一杯に孫悟空の顔だけが描いてあったんです。うぁースゴイ迫力、一瞬その絵に魅せられてしまいました。

 自分の描いた絵は見たまま見えたまま、彼の絵もまた見たまま見えたまま、同じ所から同じように描きましたが、視点が違っていたんです。もう一度ふり返って大屋根の孫悟空を見てみると、彼の孫悟空が私にも見えたような気がします。

 その後、彼とは親友として永年つきあいましたが、40歳と言う若さで病に倒れ他界してしまいました。あの時の無念さ、悔しさは忘れることができません。

 今でも仕事や日常の中で考えに行き詰まったり迷ったりした時などに、ふと彼の孫悟空が脳裏をよぎる時があります。あっ、そうかこうでなくていいんだ、一つの考えに捕われず視点をかえてみる、発想の転換。

 今思うとあの時の孫悟空がそのことに気付かせてくれた瞬間だったのかなと思っています。残念ながら発想を転換する術はまだ獲得できていませんが、ま、気付いただけでも良しとしますか。